- 執筆者: 20年以上DTP・書籍制作の現場に携わる現役エディトリアルデザイナー
- この記事の目的: Adobe CCの中でも「食わず嫌い」されがちなInDesignの本質的な利便性を解説
- 主なトピック: ページ管理の自動化、プロレベルの文字組み、見開き作成の効率化
- 得られる知見: なぜレイアウト作業においてIllustratorではなくInDesignが「最強のツール」とされるのか、その具体的な有用性が理解できます。
1.エディトリアルデザイナーが実感する、InDesignの汎用性と実用性
AdobeCCのコンプリートプランに加入している人でも、あまり使う機会のないIndesign。
私のような本がメインのデザイナーでなければ、とっつきにくさはあるだろうと思います。もちろんPhotoshopやIllustratorも併用していますが、DTPのあらゆるシーンで活躍できる、汎用性の高いのツールだと感じています。このままマニアックな存在として扱われるのも惜しいので、その良さを紹介していこうと思います。契約の敷居はありますが、レイアウトが伴うデザイン作業であれば、プロアマ問わずに活用できる素晴らしいツールです。
ここが強み!
- 比類なきページ管理能力
- 圧倒的な文字組機能
- IllustratorやPhotoshopとの高い連携力
- 見開きデータのスペシャリスト
- 包括的なファイル管理とデータチェック機能
ここが弱み!
- ピクセルデータの編集ができない
- 文字のアウトライン化が少し苦手
- パス編集機能はIllustratorに劣る
- フチ文字が少し苦手
- バージョンによるデータの互換性が弱い
他にもまだまだ特徴がありますが、ざっくりまとめると、平面のデザインにおいて、ほぼあらゆるシーンで汎用的に活躍できるアプリと言えます。下記は私が実際にIndesignで実際に作成したものです。PhotoshopとIllustratorを連携して使っていますが、イラストや背景素材といったもの以外のほとんどをIndesignで作成していいます。

2.レイアウトの要:InDesignならページの追加・変更が瞬時に完結する
Indesignといえばページ管理能力です。マスターページを使用したノンブル(ページ番号)の自動割り振りと、柔軟なページ入れ替えや並び替えができます。

ドラッグ&ドロップでページを簡単に追加でき、包括的に管理することができます。大量のページを前提としているので、Illustratorよりも処理が軽いのも特徴です。PCの処理性能や、データの重さに応じて表示設定を変更すれば、負荷を調整することもできます。サンプル画像では、ページタブのサムネイル表示をオフにして処理を軽くしています(Aだけが表示されている状態)。

マスターページにオブジェクトを配置すれば、該当するページ全てに自動反映されます。上記例では「A-マスター」にノンブル(ページ番号)のオブジェクトだけを配置し、Aマスターが適用された全てのページに対して、自動的にノンブルが配置されるようにしています。また、このノンブルは動的に変化する特殊なオブジェクトで、ページ数を変えても自動で変更されます。

ページの置き換えや移動も簡単です。ドラッグ&ドロップはもちろん、ダイアログで移動先を指定することもできるので、大量のページを長々とドラッグする必要はありません。また、ドキュメントを跨いだ移動も可能なため、別のドキュメントで作成したページを統合することも可能です。
3.タイポグラフィのプロ仕様:文字組みにおけるInDesignの圧倒的優位性
全てを使いこなすのは不可能と思えるほどに、充実した文字組の機能が揃っています。Wordなどで設定できるような基本的な項目はもちろん、文字単位、段落単位、あるいはそれらを包括的に定義する設定が細かく存在します。それゆえに少し混乱を招くことも多いのですが、基本的なところさえ覚えれば、通常の使用に問題はありません。

Indesignでは、オブジェクトに対してさまざまな「効果」を設定することができます。これを利用すれば、文字にさまざまな装飾を施すこともできます。

上記は、シャドーをつけたり光彩をつけたりすることで文字に装飾をほどこした例です。これらは文字に限らず、あらゆるオブジェクトに対して可能です。個人的には、Illustratorよりも自然な効果が再現できると感じています。ちなみにジャギーが見えるのは簡易表示のためで、実際には滑らかにボカシやフチが作成されています。
4.冊子設計の効率化:見開きページ作成が簡単であることの重要性
Indesignといえば本を作るアプリであって、チラシやポスターを作る際には選択肢に上がらないという印象がありますが、単体ページも問題なく作成できます。実際、冒頭で紹介したようなカバーデザインなどは、折り返しや背表紙も含めた連続したレイアウトになっており、Illustratorと同様の方法で作成が可能です。とはいえ、やはりIndesignといえば見開きページの扱いが特徴ですので、その部分について紹介します。

上記が新規ドキュメント作成のウィンドウです。用紙サイズはどの感覚的にわかりやすいと思いますが、特徴なのは「綴じ方」です。これは、本を右にめくって読むのか、左にめくって読むのかということを定義する設定です。縦書きの本なら右開き、横書きの本なら左開きというわけです。この設定によって、ノンブルの流れが決定されます。

見開きは任意で固定ができます。ページ数を変えても、見開きがバラバラにならないように設定することもできます。上記の画像では、ページタブ内のページ数表記が[35-34]というように、括弧でくくられているのが、固定された見開きです。

印刷やPDF化についても見開きで出力が可能です。あたりまえのような機能ですが、トンボの扱いなどをこの出力設定に合わせて設定できるのは、見開き前提のソフトならではだと思います。AdobeのアプリPDF化との相性がバッチリなのも嬉しいポイントです。実際の仕事において、これは非常に重要です。
| 比較項目 | InDesign | Illustrator |
|---|---|---|
| 得意なこと | 多ページのレイアウト・文字組み | ロゴ・イラスト・単発のデザイン |
| 修正の速さ | 一括管理機能で非常に速い | 1ページずつの手作業になりがち |
| プロの現場 | 書籍・雑誌制作の標準ツール | 素材作成・DTPの一部で使用 |
基本的な役割を把握した後は、いよいよ実際の制作の土台となる「ドキュメント設定」について解説します。
まとめ:20年の現場経験から見るInDesignの進化と歴史
かつてDTPが実用されはじめたたころ、これに対応できるソフトはQuarkXPressしかありませんでした。サブスク時代の今では考えづらいですが、単品で15万円程度もするプロユースの組版ソフトだったのです。しかし、当時のQuarkXPressは海外での仕様がベースになっており、現場で実用には力不足でした。日本語は、ひらがなやカタカナ、漢字、アルファベットなどを複合的に使用する特異な言語であり、印刷所や製版所の持つ独自のノウハウが必要不可欠でした。しかし当時のQuarkXPressでは、それらをデータ上で再現することが難しかったのです。
文字ボックスと簡単なオブジェクトの配置と着色ができ、ページを見開きで管理できるというだけのアプリだったといっていいでしょう。
DTPといえばQuarkXPressという時代に、Indesignが登場して実用されはじめたのはver2.0あたりからです。まだまだ動作が不安定で機能不足は否めませんでしたが、日本語組版に特化したフレームグリッドの実装は、Adobeが日本市場に対して本気であることを伺わせました。
QuarkXPressはIllustrator(ベクターデータ処理)やPhotoshop(ラスターデータ処理)との組み合わせが必須でしたが、これらの連携にも問題がありました。しかしIndesignは同じAdobe製であり、そこに対する問題の多くを解決したことも、一気に普及した理由だと思います。
このように、IndesignにはQuarkXPressの代替品としての出自があり、それゆえ、本のデザイナー以外には認知されづらいソフトとなってしまったのだと思います。私も当然IllustrotorやPhotoshopを使用しますが、それらの連携の中心はIndesignとなりました。これは、Indesignがアップデートを繰り返すうち、Illustratorの領域を取り込んでいったからです。もちろん、複雑なオブジェクトやベクターデータの取り扱いについてはIlustratorが専門で、Indesignのベクターデータ編集機能は限定的です。何より、AI(Illustratorのファイル形式)は極めて一般的で、バージョンを跨いだ汎用性が高いというメリットはあります。しかし、レイアウトという分野においては、Indesignが総合的に優位だと感じています。
私が主軸にしている本の分野は斜陽産業の代表のようなものですが、DTPの現場を支えてきたIndesginとその開発スタッフに敬意を表しつつ、プロアマ問わず、また媒体やジャンルを超えて活用されることを願います。


